浮き輪とえんぴつ


2両編成で山あいを走る
富士急行線の終電
つり革だけが静かに揺れる車内に
どこからか
小さな白い蛾がとんでいる
ぱたぱた
ぱたぱたと
蛍光灯と戯れながら
速く走れば
逃げられるものと
たとえ鳥のように
空高く飛び上がろうとも
逃げられないものがある
逃げられないものが
やってきた
各駅に止まる電車の
外は
暗く静かで
少し
肌寒い